「なんで少数派の人はいじめられるの?」――【NHK子ども科学電話相談 ものの見かたが変わる 10歳からのQ&A】②

「なんで少数派の人はいじめられるの?」子どものまっすぐな質問に、あなたならなんと答えますか?――NHKラジオ「子ども科学電話相談」に寄せられた「人間にまつわるギモン」に、各分野の専門家は何を答え、どう問いかけたか。自分を見つめ、やわらかな思考力を育む、親子で楽しめる『NHK子ども科学電話相談 ものの見かたが変わる 10歳からのQ&A』より、一つの「ギモン」をご紹介します。(全3回の2回目です)

【いじめについて】少数派の人ひとたちがいじめられるのは、なぜ?

少数派の人ひとたちがいじめられるのは、なぜ?
人はなぜ、大きなグループをつくって、そのグループに入っていない人をいじめるんですか?
(小学5年生 Kさん)

人はどうやってグループを選ぶ?

大日向先生:Kさんの質問は、人間の本質に関係するものです。学校での友だち関係や、大人になってからの職場や地域での人間関係、さらには、国の政治や国際的な関係まで、わたしたちの社会全体に関わる大切なテーマですので、じっくり考えていきましょう。

Kさん:はい。

大日向先生:まず、自然の中で暮らす生き物には、群れ、つまりグループをつくって暮らしているものがたくさんいます。それにはいろいろな理由があるようですが、いちばんの理由は、集団になることで敵から身を守ることができるからだそうです。ですから、群れをつくるのは、小さくて弱い生き物ものが多いのです。そして、それは人間も同じ。一人で生きていくことがむずかしかったり、生活していくうえでグループがあると便利だったり、安心できたりするから、群れをなすことがあると考えられます。では、わたしたち人間がグループを選ぶとき、どのように選ぶのでしょうか? Kさんが友だちをつくるときには、どういう人を選びますか?

Kさん:相談にのってくれたり、話を聞いてくれたりする人です。

大日向先生:それは大事なことですね。こまったときに話を聞いてくれて、「だいじょうぶよ。あなたはまちがってない」と言ってもらえると、安心しますね。そういうことは、実際にありますか?

Kさん:はい、あります。

大日向先生:そうですね。そうやって自分の気持ちをわかってくれる友だちって、大切だと思います。ところで、そういう友だちは、Kさん自身に似ているところが多い、ということはないかしら?

Kさん:ああ、似ているかもしれないです。

大日向先生:仲間やグループを選ぶとき、わたしたち人間は、考えかたや趣味、好きなものや、行動パターンなどが自分と似ている人を選ぶ傾向があります。そうすると、何かを相談しても、おたがいに否定はしないでしょう? 「わかる、わかる」と言い合えれば、居心地がいいですよね。人間がグループを選ぶときの1番目のポイントは、「自分と似たものを選ぶ」ということなのです。

Kさん:はい。

大日向先生:そして、2番目のポイントは、「大きいグループを選ぶ」ということです。なぜ大きいグループを選ぶかというと、所属している集団が大きくなればなるほど、力をもつからです。集団が大きくなって人数が多くなると、いろいろなことを自分たちに都合のよいほうに決定できる機会が増えるの。
ですから、だれでも「大きい集団を選んだほうが有利になる。守ってもらえる」などと考えがちなのですね。

Kさん:はい。

大日向先生:問題は、ここから先なのです。

大きなグループの人は、じつは弱い?

大日向先生:もちろん、人は一人では生きていけませんから、仲間を見つけることが必要なときが少なくないでしょう。でも、いっしょにいる人が、いつも自分と似た人たちばかりだと、どうなるかしら?
自分とは異なる意見や価値観をもった人の存在が、見えなくなります。そして、集まった人数が多ければなおのこと、「自分たちが正しい。すぐれている」という、まちがった優越感をいだいてしまう傾向があるのです。
その結果、自分たちとちがう意見をもっている人や、少数派の人たちに対して、大きなグループの人は、どのように行動すると思いますか?

Kさん:悪口を言ったりする……?

大日向先生:そうね、悪口を言っていじめてしまうことがありますね。でも、その前に、「同調圧力」をかけるということをしがちです。これは心理学のことばで、「わたしたちと同じになりなさい」と相手を精神的に圧迫することを意味します。「どうしてあなたは、わたしたちとちがうの? わたしたちのほうに合わせなさい」と圧力をかけて、それでも自分たちのグループに合わせない人がいると、いやがらせをしたり、悪口を言ったり、差別をしたりするのです。
でもね、そういうことをする人たちって、じつは弱いんですよ。

Kさん:ええっ⁉

大日向先生:びっくりしますよね。いまある安心感を失うのがこわくて、自分たちがすでに得ている権利や、有利な状況を守ることに必死になり、自分たちとはちがう人たちを攻撃するのです。あるいは、少数派の人たちがいじめられるのを見て、こわくなって、本当はよくないと思っていても、なかなか大きなグループから逃げ出せなくなってしまうということもあります。こうして見ていくと、大きなグループにいて大きな力をもっている人というのは、強そうに見えて本当は弱いということがわかりますね。

Kさん:はい。

大日向先生:本当は弱い人が、まちがった権力に従ってしまったときに、戦争や犯罪などの残虐な行為が発生する、とも言われています。まちがった大きな力に対して「ちがう」「いやだ」と言えない弱さ。そして、「まわりもみんな同じだから」と、自分自身で考えることをやめてしまう弱さ。そういった弱さから、人はだんだん、大きな権力のもとに集まって、「自分たちはまちがっている」ということが認識できなくなることがあるのです。

Kさん:ふうん……。

大日向先生:こういうことは、やっぱり改めたいですよね。少数派の人がいつまでもいじめにあい続けるなんて、いやですものね。

Kさん:はい。

大日向先生:少数派の権利と人権を守ろうという運動は、ずいぶん前から世界のあちこちで起きています。たとえば、アメリカでは1960年代に、人種や性のちがいによる差別をやめようという大きな運動が起きました。最近は日本でも、さまざまな少数派の人たちに目を向けた動きがあります。かんたんではないけれど、少数派の人もきちんと声をあげることができて、その声にしっかり耳をかたむけられる社会をつくっていきたいですね。そのためにも、まずは身近なところで、大きな力に流されるのではなく、自分自身の考えをしっかりもって行動することが大切だと思います。わたしたち一人一人が、まちがっていることはまちがっていると言える勇気をもてたら、世界は少しずつ変えられるのではないかと思います。それこそが、人間の本当の知性だし、強さなのだと思います。


先生の見方

大きな集団は、まちがった優越感をもつようになり少数派をいじめてしまうこともある。でも、そういうことをする人たちは、じつは弱い。

大日向雅美先生

少数派の人たちの声に耳をかたむけられる社会を実現するためにも、まずは自分自身に目を向けよう。そして、大きな力に流されず、自分自身はどう思うのかを考え、伝えられる勇気をもとう。

大日向雅美先生

(大日向雅美先生写真 アートスタジオスズキ)

答えてくれた先生

大日向雅美(おおひなた・まさみ)
神奈川県出身。恵泉女学園大学長。発達心理学、母性研究の第一人者として活躍。またNPO法人「あい・ぽーとステーション」代表理事として、地域の子育てや家族支援にも取り組んでいる。小さいころは「できることと、できないこと」がはっきりしていた。「母からよく、金平糖ちゃんと呼ばれていました。色とりどりでかわいいけれど、でこぼこしているという意味が込められていたようです」。著書に、『母性愛神話の罠』、『女性の一生』(いずれも日本評論社)など。

『NHK子ども科学電話相談 ものの見かたが変わる 10歳からのQ&A』には、人間ってなんだろう? 「うたがう力」を育てる18の対話が収載されています。お子さんへのプレゼントや、親子でも楽しめる一冊です。

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