
奈良県音羽山の中腹にある尼寺で、お寺を30年以上守り続けるご住職の後藤密榮さん。豊かな自然に囲まれた暮らしの中で、どんな食材も知恵と工夫でおいしくしてしまう料理名人でもあります。本記事では『やまと尼寺 精進日記 3 ひとり生きる豊穣』より、3月3日の桃の節句の様子と、春のお菓子を紹介します。長芋やかぼちゃなど、身近な食材にひと手間かけることで、愛らしい春のお菓子が完成します。
※本記事用に一部を編集しています。
『やまと尼寺 精進日記 3 ひとり生きる豊穣』より
感謝の気持ちを込めた3月3日のお茶会

いつもの境内に、野点傘(のだてがさ)と花を活けた青竹がしつらえてありました。桃の節句のこの日、いつもお世話になっている村の人たちを招いたお茶会を、ご住職が計画したのです。お茶席のお菓子は、年末にたくさんいただいた長芋を使って作った、桃の花の形の和菓子。忙しい日常を忘れて、のどかなひととき。ご住職からの心を込めたお返しです。

長芋の生地にかぼちゃ餡を包んだ、愛らしい花の形のお菓子
「桃の花の和菓子」作り方
材料(12個分)
かぼちゃ 1/2個
(干し)長芋 中1本
桜の塩漬け 30g ※水で洗って絞っておく
砂糖 100g
水 少々
- 1
かぼちゃはやわらかくなるまで蒸して皮を除き、裏ごしする。
- 2
1と砂糖、水を鍋に入れて火にかけ、水分をとばしながらなめらかな餡にする。
- 3
2が冷めたら3センチほどの大きさに丸める。
- 4
長芋はやわらかくなるまで蒸して皮を除き、裏ごしする。細かく刻んだ桜の塩漬けを混ぜ込む。
- 5
4の生地を丸く平らにのばし、3の餡を包む。
- 6
5等分に筋をつけ、花の形に整える。
ひとりでも欠かさない四季の行事。
「昔からしていることだから、やらないと落ち着かない」
とご住職は言います。暦が移り、季節を実感しながら過ごす喜びを、ならわしによってあらためて感じるのだそうです。
普段は作らない、この日だけの特別な料理を工夫しながら作ることも行事の醍醐味です。
なにもないようで、探せばなんでもある。楽しみは、繰り返す日常の中にこそあるのかもしれません。
■NHK「やまと尼寺 精進日記」制作班
「やまと尼寺」とは?
奈良の尼寺、音羽山観音寺を舞台に、ご住職である後藤密榮さんの暮らしぶりやお寺の行事、ご住職を中心につながる人びとの姿を美しい画像とともに紹介するシリーズ。
『やまと尼寺 精進日記 3 ひとり生きる豊穣』では、コロナ後、ひとりになったご住職の日常を中心に、秋冬の行事やしつらい、ご住職が語る「来し方・行く末」を紹介。山深いお寺でひとり暮らすその姿は、老いに対する心構えや、年齢を重ねても豊かで愉しい日々が送れることを、私たちに教えてくれます。


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