

『渋谷系日誌』は、NHK将棋講座テキストに掲載の人気連載です。毎月、NHK放送センターや千駄ヶ谷の将棋会館など、渋谷界隈(かいわい)の棋士や関係者のエピソードなどを、将棋観戦記者・後藤元気さんがお届けしています。
今回はテキスト3月号より「NHK杯戦の観戦記」についてのエピソードをお届け。
早いもので
いつもこんなことばかり言っている気がしますが、早いもので3月いっぱいで糸谷哲郎八段の将棋フォーカス講座「ようこそ! 糸谷ワールドへ」が幕引きを迎えました。
ユニークなコスチュームやポーズ、山口恵梨子女流二段との楽しい掛け合いも好評で、視聴者(読者)からのメッセージも多かったです。
これがテレビドラマだったら、頃合いを見て「帰ってきた糸谷ワールド」とか「糸谷ワールドリターンズ」みたいな展開もありえるかもしれませんが、将棋だとなかなかそういうわけにもいかないですかね。
4月からの講師はアウトドア棋士の代表格といわれるあのお方に決まりました(次号予告にネタバレがあるかも?)。どんなことをレクチャーしてくれるのか、しっかりと準備体操をしつつ待ちたいと思います。
NHK杯戦の観戦記
今号のNHK杯観戦記は年に一度の6局掲載となっております。
トップ棋士同士の長手数対局が多かったうえ、羽生善治九段― 永瀬拓矢九段と藤井聡太NHK杯― 久保利明九段戦は1ページ増とボリュームアップしております。ぜひ盤に並べて熱戦を味わってください。
NHK杯観戦記といえば、千葉県にお住まいのMさんからこんなおたよりが届いています。「12月号でよかった記事はNHK杯戦観戦記です。もう少し観戦記の解説をていねいにしていただけるとうれしいです」
Mさんは12歳初段とのこと。まさに伸び盛りの時期。観戦記については記者さんそれぞれで流儀があり、工夫を凝らしている部分も異なっているのが面白いと思っています。
例えばひとつの指し手について、変化手順をどのくらい載せるのが適切かという問題があります。
これは書く人と読む人の棋力や性格、何に重きを置くかによって変わってきます。ある読者は棋譜の符号を全部飛ばしているかもしれませんし、逆にMさんのようにもっと解説してよって人もいらっしゃるでしょう。自分の好きなバランスで書いてくれる観戦記者さんを見つけるというのも、NHK杯戦の楽しみ方のひとつといえそうです。
かつて本誌に長く連載を持ち、将棋文筆の第一人者だった河口俊彦八段は「観戦記は解説の符号が少ないほどいい」と書いていました。
もちろん両対局者が心血を注いで指した将棋が中心にあるのは当然のこと。ただそれを詳細に伝えるために全編が符号だらけの解説になったら誰が目を通してくれるのか、というのがその意図だと思います。
とある先輩記者からも「棋士が指した将棋は棋譜として残る。それ以外のことは記者が残さなくてはいけない」と言われたことがあります。
その棋士の人柄や背景といったエピソードを織り交ぜ、なぜここでこういう手を指したのか、もしくは指せなかったのかという考察の土台にしていくのも観戦記の務めです。
人工知能を活用した将棋ソフトが幅を利かせる昨今は、棋譜さえあればいくらでも事後の解析が可能という状況になっています。対局中には勝率表示や評価値といったデジタルな数字や予想手が示され、将棋の見方、見せ方もかなり変わってきました。いやいや俺は変わらないよ?勝率表示なんていらねえからビーッとテープ貼って見えなくしちゃってんだかんね!というのもアリでしょう。
もし解説手順についての疑問、盤外諸々についても聞きたいことがありましたら、重箱のスミクイズのついでにでも質問を書いてみてください。絶対にとは約束できませんが、もしかしたら当欄でお答えできることもあるかもしれませんので。
後藤元気
元奨励会、指導棋士四段。名人戦・順位戦や棋王戦の観戦記者。NHK将棋講座テキストの編集に携わっている。毎月『渋谷系日誌』を連載中。
◆NHK『将棋講座』テキスト2024年3月号より抜粋
※山口恵梨子さんの段位は、2024年1月29日現在のもの
