創刊10周年を迎えた「100分de名著ブックス」シリーズは、累計50万部を突破しました。「さらに多くの方に名著の魅力に触れてほしい!」との思いから、毎週月曜日、既刊の名著読み解きを1章まるごと公開します! 今回の名著は孔子の「論語」。「100分de名著ブックス 孔子『論語』」の「はじめに」と「第1章」より、佐久 協先生による読み解きをご紹介します(第2回/全7回)

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第1章 人生で一番大切なこと (その1) 孔子は枯れた爺さんじゃないんだよ  第一章のテーマは、「人生で一番大切なこと」。
 
 皆さんは、「孔子」という名前を聞いた時、どんな人物を思い浮かべますか?
 
 ワタシが察するに、白髪で、りっぱなあごひげをたくわえ、杖なんかをついた“仙人”のような老人──、ではないでしょうかね? まわりには弟子がいっぱいかしずき、その弟子たちに向かって、時おり、おごそかに“説教”をすると、弟子がハハーッと従う。まあ、そんな情景が定番でしょう。
 
 ところがどっこい、孔子という人物は、そんな悟りきったような老人ではありません。
 
 もっともっと行動的で、エネルギッシュで、情熱的で、不屈の精神の持ち主だったんです。「人間というのはこうあるべきだ」「社会はかくあるべきだ」という理想に燃えて、生涯それを訴えつづけたんです。
 かといって、クソ真面目なんかじゃなく、酒を飲んだり歌ったりスポーツをしたりと、けっこう遊びも楽しんでいるんです。
 
 最初に、孔子のプロフィールを、少し話しておきましょうか。

 生年は紀元前五五二年。生誕地は中国中東部の魯(ろ)の国。今でいう山東省のあたりです。
 
 孔子といえば学者か教育者だと思われていますが、若いころからずっと政治家志望でした。しかし、志望をなかなか実現できなかった。そうとう頑張ったんですが報われず、長い苦節の年月を過ごし、その夢がかなったのはようやく五十歳を過ぎてからのことです。

 「ようし、やっと俺の番が巡ってきた。やったろうじゃないか」と大いに意気込んだことでしょう。ところが、出だしはなかなかいい感じだったんですが、当時の国政を牛耳っていた「三桓氏(さんかんし)」という三家の家老(季孫(きそん)氏、孟孫(もうそん)氏、叔孫(しゆくそん)氏)に邪魔されて、わずか三年で失脚してしまいます。

 その後は十四年間も諸国を放浪し、ようやく祖国に戻ってはきたものの、結局政界に返り咲くことは二度とありませんでした。

 つまり、いわゆる“出世”という意味では、彼はまったくサエない人生を送ったことになります。

 ちなみに、二十代の終わりごろに、一時下級官吏を務めていたようですが、いつごろまで、どんなことをやっていたのかなどは、よく分かっていません。

 しかし、政治家としては大成しなかったのと反比例するように、孔子の人柄や教養はたいへんな評判を呼んで、「教えを請いたい」と弟子がわんさと押しかけてくるようになったのです。

 孔子に最初の弟子ができたのは三十代のころだったとされており、やがて私塾という形になり、それがちょっとした“孔子軍団”みたいなものに発展していきます。一般に言われている「弟子の数、三千人」はいくらなんでもオーバーでしょうが、まあ、多数の若者に慕われていたことは確かなようです。
 
 孔子に会ったことはないのでもちろん想像ですが、ものすごいオーラを発していたんじゃないんでしょうかね。記録によると、身長が二メートル前後(!)あったというから、どうしたって目立ったでしょう。

 彼は控えるべきところは控える慎み深い人だったんですが、「こうだ!」って主張する段になったら、ガンとして譲らない。二メートルの偉丈夫(いじようふ)が、熱弁をふるう様子を想像してみてください。立っていたって座っていたって頭一つ抜きん出ている。これはものすごくインパクトのある“絵”でしょう。

 なお、孔子が「自分の出世はもういい」と弟子の育成に専念するのは、長旅から戻ってきたのち──、すなわち六十九歳から七十四歳で亡くなるまでの数年間のことです。それまでは、自分も現役としてやる気満々。つまり、ぜんぜん“枯れた老人”などではなかったのです。

 どうですか? 孔子のイメージがかなり変わったでしょう。
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■『NHK「100分de名著」ブックス 孔子「論語」』(佐久 協 著)より抜粋
■脚注、図版、写真は権利などの関係上、記事から割愛しております。詳しくは書籍をご覧ください。
佐久 協(さく・やすし)
文筆業。1944年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学院で中国文学・国文学を専攻。大学院修了後、慶應義塾高校で教職に就き、国語、漢文、中国語などを教える。同校生徒のアンケートでもっとも人気のある授業をする先生として親しまれてきた。2004年に教職を退き、現在は思想、哲学、漢籍、日本語など幅広いテーマで執筆活動、講演活動を行う。主な著書に『高校生が感動した「論語」』(祥伝社新書)、『世界一やさしい「論語」の授業』(ベスト新書)、監修に『論語が教える人生の知恵』(PHP研究所)、『論語を楽しんで生かす本』(主婦と生活社)などがある。
※著者略歴は全て刊行当時の情報です。
大人の学び直しにおすすめ! NHK「100分de名著」ブックス&「学びのきほん」シリーズの紹介はこちら *『論語』の章句について、書き下し文は現代仮名遣いで表記し、金谷治訳注『論語』(岩波文庫)をもとに一部改変、編集部で適宜ふりがなをふりました。さらに佐久流解釈による現代語訳を並記し、原文は一部旧漢字を残して付しました。

*本書は、「NHK100分de名著」において、2011年5月に放送された「孔子 論語」のテキストを底本として一部加筆・修正し、新たに第4回放送の対談と読書案内、年譜などを収載したものです。
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