創刊10周年を迎えた「100分de名著ブックス」シリーズは、累計50万部を突破しました。「さらに多くの方に名著の魅力に触れてほしい!」との思いから、毎週月曜日、既刊の名著読み解きを1章まるごと公開します!
今回の名著は孔子の「論語」。「100分de名著ブックス 孔子『論語』」の「はじめに」と「第1章」より、佐久 協先生による読み解きをご紹介します(第3回/全7回)
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第1章 人生で一番大切なこと (その2)
まっすぐに生きよ!
さて、われわれは現代のこういう世の中で、いろんな仕事を持ったり、学校に通ったり、また、家庭を持ったりして生きているわけですが、日々の暮らしの中で、「心がけを正しく持とう」とか、「間違ったことがあったら声をあげよう」とか、そんな堅いことはあまり考えていないでしょう。
むしろ、だいたいの人の頭の中にあるのは、「波風立てないようにしよう」とか、「自分だけ正しいことをしても、何も変わらない」とか、「まともにやってると損しちゃう」とかでしょう。
もちろん、孔子の場合は、そういうのはアウト。なんせ、正論の人なんです。
有名な言葉に、こういうのがあります。
「義を見て為ざるは、勇なきなり」(見義不爲、無勇也、 為政第二─二十四)
(正しいと分かっていながらやらないのは臆病者だよ。正しいことが分かっているんだったら、あくまでもやるべきだぞ)
あるいは、こういうのもあります。
「力足らざる者は中道にして廃す。今女は画れり」(力不足者、中道而廢、今女畫、 雍也(ようや)第六─十二)
(力が足りないのなら、やるだけやって途中で倒れればよい。やりもしない前から「できません」と言うのは、自分で自分を見限っている証拠じゃないかね)
いや、ゴメンなさい、と言いたくなるでしょう。
また、こういうのもあります。
「人の生くるは直し。これを罔いて生くるは、幸にして免るるなり」(人之生也直、罔之生也、幸而免、 雍也第六─十九)
(ともかく、人間は愚直なくらいまっすぐ生きるのがいちばんだよ。悪知恵によって羽ぶりをきかせている人間を見ると、うらやましく思うこともあるかもしれないが、そんな人間をうらやむことなんかありゃしないよ。ああいう連中は、今のところまぐれあたりで禍いを免れているだけなんだからね)
たしかに、あまり意地汚いことばかりやっていると、最後にはいいことにはならんもんです。信頼を失うだろうし、敵だらけになるのがオチでしょう。
こういう言葉もあります。
「巧言令色、鮮なし仁」(巧言令色、鮮矣仁、 学而第一─三)
(言葉巧みでやたら愛想のいいやつには、ろくなもんがおらんよ)
人間は口ベタでもいい。誠実なのがいちばんだ、というのが、孔子の考えです。
こんな諫(いさ)めもしています。
「利に放りて行なえば、怨み多し」(放於利而行、多怨、 里仁(りじん)第四─十二)
(利益だけを目的になりふり構わず行動していたら、人の恨みを買うのがオチだぞ)
かつて、モラルに反するマネーゲームで大顰蹙(ひんしゅく)を買った投資家がいましたが、まさに、おっしゃるとおりです。
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■『NHK「100分de名著」ブックス 孔子「論語」』(佐久 協 著)より抜粋
■脚注、図版、写真は権利などの関係上、記事から割愛しております。詳しくは書籍をご覧ください。
佐久 協(さく・やすし)
文筆業。1944年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学院で中国文学・国文学を専攻。大学院修了後、慶應義塾高校で教職に就き、国語、漢文、中国語などを教える。同校生徒のアンケートでもっとも人気のある授業をする先生として親しまれてきた。2004年に教職を退き、現在は思想、哲学、漢籍、日本語など幅広いテーマで執筆活動、講演活動を行う。主な著書に『高校生が感動した「論語」』(祥伝社新書)、『世界一やさしい「論語」の授業』(ベスト新書)、監修に『論語が教える人生の知恵』(PHP研究所)、『論語を楽しんで生かす本』(主婦と生活社)などがある。
※著者略歴は全て刊行当時の情報です。
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*『論語』の章句について、書き下し文は現代仮名遣いで表記し、金谷治訳注『論語』(岩波文庫)をもとに一部改変、編集部で適宜ふりがなをふりました。さらに佐久流解釈による現代語訳を並記し、原文は一部旧漢字を残して付しました。
*本書は、「NHK100分de名著」において、2011年5月に放送された「孔子 論語」のテキストを底本として一部加筆・修正し、新たに第4回放送の対談と読書案内、年譜などを収載したものです。
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