創刊10周年を迎えた「100分de名著ブックス」シリーズは、累計50万部を突破しました。「さらに多くの方に名著の魅力に触れてほしい!」との思いから、毎週月曜日、既刊の名著読み解きを1章まるごと公開します! 今回の名著は孔子の「論語」。「100分de名著ブックス 孔子『論語』」の「はじめに」と「第1章」より、佐久 協先生による読み解きをご紹介します(第6回/全7回)

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第1章 人生で一番大切なこと (その5) 自己中心はジコチューに非ず  孔子が推奨する一語は「恕(じょ)」でした。

 一語で訳すと“思いやり”です。孔子は人が真っ当に生きていく行動の指針として、つねに「恕」の心を忘れるな、そうすれば、自分の人間的成長もおのずとかなうと言っています。

 弟子の子貢(しこう)との会話を見てみましょう。
 西洋では『聖書』にあるように、「自分がしてもらいたいことを、人にしてあげなさい」と言います。表現は裏腹ですが、それと同じこと。

 ちなみに、テストの時、「恕」と書きなさいと生徒に問うと、「怒」と間違える者がかならずいる。形は似ていても、意味はまるで違うから要注意です。

 では、孔子が言うところの“思いやり”の精神。これについて、皆さんも少し考えてみてください。
 「思いやる」という以上は、思いやる対象があるわけです。では、誰に対して思いやりをかければいいのでしょうか。

 もう、時間がないからワタシが答えてしまいますが、思いやりをかける対象に含めるべきは──、じつは「自分自身」。思いやりというのは、お年寄りや弱者にだけかけるものではないんですよ。

 ちなみに、自分を思いやるというのは、自分を甘やかすことではありません。そうでなく、自分を励まし、自分を磨くことです。

 たとえば、こんな会話があります。
 まず自分が充実していれば、周囲との関係もよくなり、ひいては人間社会全体もよくなる。要するに、何をおいても、まずは「自分をきちんとする」のが最優先ということです。

 言ってみれば、これは、「孔子的“自己中心”のすすめ」です。現在では「自己中心」というのはカタカナで「ジコチュー」と書いて、悪い意味にしか使われていません。裁判官が被告に判決を言い渡す時、「被告は自己中心的で……」とお決まりのように言いますが、こりゃチトおかしいでしょう。

 というのも、その自己中心とやらで引き起こされた事件をよく見てごらんなさい。ぜんぶ、自己中心じゃなくて、金銭中心、欲望中心、権力中心、暴力中心……。自分をどこかに置き忘れてしまった結果、引き起こされているものばかりです。

 犯罪を起こした人にその時の心理を聞くと、たいてい「よく覚えてない」と言います。つまり、自分を失って、自分がお留守になった結果、とんでもないことをしでかしてしまったわけです。
 自分を愛する自己愛も、今では悪いことであるかのように見なされていますが、自分を愛し、自分のことをよく見つめていれば、悪事に走らないはずです。

 だから、ワタシは、裁判官には「被告はもっと自己中心的になりなさい。自己愛に目覚めなさい」と言ってもらいたい。──冗談ではなくそう思っているのです。

 とにかくみんな、もっと自分に「恕」をかけてもらいたい。自分を大切にできてこそ、初めてまわりの人間も大切にできるのです。自分を愛せない人間は、他人も愛せません。

 自己中心、あるいは自己愛ということが人間形成のキーになる。これは、孔子の考え方を知るうえで心に留めておきたいポイントの一つです。
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■『NHK「100分de名著」ブックス 孔子「論語」』(佐久 協 著)より抜粋
■脚注、図版、写真は権利などの関係上、記事から割愛しております。詳しくは書籍をご覧ください。
佐久 協(さく・やすし)
文筆業。1944年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学院で中国文学・国文学を専攻。大学院修了後、慶應義塾高校で教職に就き、国語、漢文、中国語などを教える。同校生徒のアンケートでもっとも人気のある授業をする先生として親しまれてきた。2004年に教職を退き、現在は思想、哲学、漢籍、日本語など幅広いテーマで執筆活動、講演活動を行う。主な著書に『高校生が感動した「論語」』(祥伝社新書)、『世界一やさしい「論語」の授業』(ベスト新書)、監修に『論語が教える人生の知恵』(PHP研究所)、『論語を楽しんで生かす本』(主婦と生活社)などがある。
※著者略歴は全て刊行当時の情報です。
大人の学び直しにおすすめ! NHK「100分de名著」ブックス&「学びのきほん」シリーズの紹介はこちら *『論語』の章句について、書き下し文は現代仮名遣いで表記し、金谷治訳注『論語』(岩波文庫)をもとに一部改変、編集部で適宜ふりがなをふりました。さらに佐久流解釈による現代語訳を並記し、原文は一部旧漢字を残して付しました。

*本書は、「NHK100分de名著」において、2011年5月に放送された「孔子 論語」のテキストを底本として一部加筆・修正し、新たに第4回放送の対談と読書案内、年譜などを収載したものです。
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