創刊10周年を迎えた「100分de名著ブックス」シリーズは、累計50万部を突破しました。「さらに多くの方に名著の魅力に触れてほしい!」との思いから、毎週月曜日、既刊の名著読み解きを1章まるごと公開します!
今回の名著は孔子の「論語」。「100分de名著ブックス 孔子『論語』」の「はじめに」と「第1章」より、佐久 協先生による読み解きをご紹介します(第5回/全7回)
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第1章 人生で一番大切なこと (その4)
結果より過程が大切
④の続き・・・。
では、孔子はどうしろと言ってるのかというと──、金儲けも出世も有名になることも、それ自体が悪いことでも否定されるべきことでもない。ただし、「目的」と「手段」、「結果」と「過程」を混同するなと口をすっぱくして教えているのです。
それは、たとえば、こんな言葉を見るとよく分かります。
「富と貴きとは、是れ人の欲する所なり。其の道を以てこれを得ざれば、処らざるなり。貧しきと賤しきとは、是れ人の悪(にく)む所なり。其の道を以てこれを得ざれば、去らざるなり。君子、仁を去りて悪(いず)くにか名を成さん」(富與貴、是人之所欲也、不以其道得之、不處也、貧與賤、是人之所惡也、不以其道得之、不去也、君子去仁、惡乎成名、 里仁第四─五)
(金持ちになりたい、出世したいと考えるのは、人の常だ。しかし、あくまでも正攻法でそうなるんでなけりゃ、つまらんじゃないか。貧乏で下積みの生活は誰だって嫌なものだ。けれども、正しい行為をしてなお貧乏であったり、出世できなかったりするのであれば、おおいに胸を張ってそれを楽しもうじゃないか)
そもそも、お金を稼ぐというのは、食べるとか、何かを買うとかの目的のためにする手段であって、金を稼ぐこと自体が目的になったらおかしいでしょう。
出世というのも、企業や社会で何ごとかを成し遂げたいから求めるものであって、出世それ自体が目的になったんじゃ本末転倒でしょう。有名になりたいというのも、同じこと。人が讃える何かを成し遂げた結果として有名になるのであって、有名になりたいために目立つことなら何でもやるというのは単なる売名行為でしょう。
つまり、孔子は結果よりもそこへ至る過程を大切にして日々を生きなさい、と教えているのです。
「目的のために手段を選ばない」ことを孔子は諫(いさ)めました。「結果は後からついてくる」──言い換えれば、正当な手段によって正当な目的のために努力した結果ならば、金も地位も名声も悪くないよ、ということになるわけです。
このように、孔子の言葉は、時に「ああ言ったり、こう言ったり」とどっちつかずに見えることがあるのですが、矛盾しているわけではないのです。
もう一つ見てみましょう。
「疏食(そし)を飯い水を飲み、肱を曲げてこれを枕とす。楽しみ亦た其の中に在り。不義にして富み且つ貴きは、我れに於いて浮雲の如し」(疏食飮水、曲肱而枕之、樂亦在其中矣、不義而富且貴、於我如浮雲、 述而第七─十五)
(質素な食事をし、のどが渇いたら水を飲む。寝る時には肱を曲げて枕代わりにする。そんな貧しい生活の中にも、日々の向上というのはあるもんだよ。不正な手段で裕福になったり出世したりなどというのは、私にとっては空に浮かんでいる雲のように、一時のはかない存在でしかないよ)
孔子の言わんとするところが伝わりますよね?
人生においては「過程」が大事であるという孔子の主張は、次のような含蓄のある言葉でも、表されています。
「子、川の上に在りて曰わく、逝く者は斯くの如きか。昼夜を舎めず」(子在川上曰、逝者如斯夫、不舎晝夜、 子罕第九─十七)
(川のほとりに立つたびに私は思うんだよ。人生ってやつはこの川のようだと。昼も夜も、片時も止まることがない)
これには、いろんな解釈がありますが、ワタシは、現在から未来へ途切れることなく続いている時間の流れ、つまり、今「現在」自分がなしていることが、結果的に「未来」へつながっていくのだという、そういう孔子の積極的な思想や願望を表した言葉だと解釈しています。
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■『NHK「100分de名著」ブックス 孔子「論語」』(佐久 協 著)より抜粋
■脚注、図版、写真は権利などの関係上、記事から割愛しております。詳しくは書籍をご覧ください。
佐久 協(さく・やすし)
文筆業。1944年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学院で中国文学・国文学を専攻。大学院修了後、慶應義塾高校で教職に就き、国語、漢文、中国語などを教える。同校生徒のアンケートでもっとも人気のある授業をする先生として親しまれてきた。2004年に教職を退き、現在は思想、哲学、漢籍、日本語など幅広いテーマで執筆活動、講演活動を行う。主な著書に『高校生が感動した「論語」』(祥伝社新書)、『世界一やさしい「論語」の授業』(ベスト新書)、監修に『論語が教える人生の知恵』(PHP研究所)、『論語を楽しんで生かす本』(主婦と生活社)などがある。
※著者略歴は全て刊行当時の情報です。
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*『論語』の章句について、書き下し文は現代仮名遣いで表記し、金谷治訳注『論語』(岩波文庫)をもとに一部改変、編集部で適宜ふりがなをふりました。さらに佐久流解釈による現代語訳を並記し、原文は一部旧漢字を残して付しました。
*本書は、「NHK100分de名著」において、2011年5月に放送された「孔子 論語」のテキストを底本として一部加筆・修正し、新たに第4回放送の対談と読書案内、年譜などを収載したものです。
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