2022年度『NHK短歌』の講座「歌人のグルメ」で講師を務めるのは笹 公人(ささ・きみひと)さん。いい歌は、字面からいい匂いが漂ってくるという笹さん。一年間みなさんに、おいしい短歌をご紹介いたします。5月号のテーマは「名物」。牛タンやなめろう、エビフライ…さまざまな地域の食をご堪能ください!  日本には、海の幸、山の幸、麺類、肉料理等(など)、「名物」と呼ばれるおいしい食べ物がたくさんあります。地域の伝統に根差したものを「郷土料理」、伝統にこだわらずに定着したものを「ご当地グルメ」と呼び分けるようです。今月は、それらの名物が詠まれた短歌をご紹介します。
 仙台名物「牛タン」。熱々の牛タンの上に塩の粒がきらめいている様子が浮かんできて、思わずヨダレが出てきます。この歌の結句が、もし「ステーキにソース」だったら、ありがちすぎて歌の魅力が半減してしまうところですが、珍味寄りの牛タンを選んだことで、絶妙な歌になりました。人生における喜びの大部分を占めるのは、おいしいものを食べている時でしょう。食べる喜びをストレートに詠んだ歌は意外と少ないこともあり、この歌はよけいに輝いて見えます。それにしても牛タンを最初に食べた人は勇気がありますね。
 奈良の名物「葛切(くずき)り」。幽体離脱体験を語り出した友人は、葛切りの半透明な見た目から幽体を連想して、無意識的にその話をしたのかもしれません。「初夏まひる」という清涼感のある場面設定も葛切りの透明感を際立たせています。
 「なめろう」とは、房総(ぼうそう)半島沿岸が発祥の郷土料理です。もともと漁師が、漁船の上で、獲ったばかりの新鮮な生魚を材料に作っていた料理で、叩(たた)いた生魚の舌触りがなめらかなことや、お皿をなめたくなるほどおいしいから「なめろう」という名前がついたとも言われています。どこか妖怪めいた味わい深いネーミングです。主にアジやサンマ、イワシ、トビウオ、サバなどの青魚を捌(さば)いた上で、味噌(みそ)・日本酒とネギ・シソ・ショウガ・ミョウガなどを乗せ、まな板の上で細かく包丁で叩いて完成させます。腕まくりをして、まな板を叩く作者の姿が浮かんできます。
 大阪名物「たこやき」。「ともしび」は、明石(あかし)にかかる枕詞(まくらことば)です。ぶつ切りとあるので、大きい蛸(たこ)が入っているのでしょう。大阪ならではのたこやきです。枕詞(まくらことば)の「ともしび」は「灯火」ですから、夜の光景として読むのが正しいでしょう。「ともしびの明石(あかし)」としたことで、悲しい色をした海が浮かんでくるところも秀逸です。
 広島名物「お好み焼き」。お好み焼きの魅力は、焼き上がったばかりの生地の上でメラメラと舞い踊る「花かつお」でしょう。この歌は、花かつおを踊りの名手に見立てています。EXILE(エグザイル) のような激しいダンスではなく、華やかな舞妓たちによる「京おどり」をイメージしました。視覚的にも楽しみつつ、熱々の生地をハフハフしながら食べるのがお好み焼きの醍醐味(だいごみ)です。「鉄板のお好み焼き」で熱々感が強調されました。
 エビフライは、銀座の洋食屋で発案されたという説が有力ですが、なぜか名古屋の名物として定着しています。昔、タモリさんが、「名古屋弁ではエビフライをエビフリャーと言う」とネタを披露したことがきっかけで、名古屋めしであるかのような誤解が広がったそうです。また、その誤解に乗っかって、エビフライを名古屋名物であるかのように提供する飲食店が多数現れ、いつのまにか本物の名古屋名物として定着したようです。いずれにせよエビフライは、全国的な人気があり、どの地域に行っても食べられます。さて、エビフライのしっぽはハートの形に見えます。そんなハート型のしっぽをふたつ白いお皿の上に並べることで、好調な恋模様を暗示させているのでしょう。
 宮崎県日向(ひゅうが)市にはおいしいものがたくさんありますが、鯖も名物のひとつです。日向鯖と焼酎の相性は抜群で、柚子胡椒(ゆずこしょう)をたっぷりと付けた日向鯖を肴(さかな)に焼酎を飲めば、高天原(たかまがはら)にも昇る心地でしょう。いますぐ宮崎に飛びたくなりました。また、この歌は、食べ物とじっくり向き合えるのも一人飲みの醍醐味であることを教えてくれます。
テキストではこのように学びます 笹 公人(ささ・きみひと)
1975年、東京都生まれ。歌人。「未来」選者。「牧水・短歌甲子園」審査員。歌集に『念力家族』(NHK E テレにて連続ドラマ化)、『念力図鑑』、『抒情の奇妙な冒険』、『パラレル百景』歌書『念力レストラン』など著書多数。


◆「NHK短歌」2022年5月号掲載記事より抜粋
◆TOP写真=©Shutterstock(テキストに掲載はございません)
Eテレ「NHK短歌」は毎週日曜、午前6時00分~6時25分放送中(再放送は金曜午後2時10分~2時35分)。笹 公人先生の放送は5月8日(日)、13日(金)です。ぜひご覧ください。
また、番組へのご投稿も募集しております。ご応募いただく際の題やテーマはあらかじめ決まっていますので、テキストもしくは番組でご確認ください。自由題でも応募できます。

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