
「囲碁療法」「ペア碁研究」とは?
「囲碁療法」「ペア碁研究」という言葉を初めて聞く方も多いと思いますが、いったいどのようなものなのでしょうか? また、囲碁の効能とは?
NHKテキスト「囲碁講座」で「囲碁療法のススメ」のコラムを連載している飯塚あいさんの研究現場を取材しました。
NHK「囲碁講座」テキスト2月号よりお届けいたします。

初心者によるペア碁対局
東京都板橋区にある高島平団地の一角に、にぎやかな声が響いていた。
広い会議室のような場所に入ると、昨年開催された全日本女流アマチュア囲碁選手権大会の覇者でもある大沢摩耶さんが囲碁入門教室を行っており、参加者たちが声をかけ合いながら囲碁に興じていた。
目を引くのが、対局がペア碁で行われていることだ。熟練者でも思いどおりにいかないのに、初心者がペア碁で対局しているのは、どういうことだろう。
しかし、真剣さの中にも和気あいあいとした楽しげな様子が伝わってくる。
参加者のほとんどが女性であることにも驚く。これは普通の入門教室とはちょっと違う。
「囲碁で脳の活性化」をうたう囲碁療法の最新研究の取材をお伝えしよう。

左から日本ペア碁協会の森脇誠さん、研究主幹の飯塚あいさん、講師の大沢摩耶さん、板橋区まちづくり推進室の井上大輔さん
東京都健康長寿医療センターに所属する飯塚あいさんが研究主幹を務める「囲碁で頭の体操『ココからペア碁入門教室』」は、板橋区や都市再生機構(UR都市機構)、日本ペア碁協会が連携して研究を推進している。
飯塚さんに加え、板橋区まちづくり推進室の井上大輔さん、日本ペア碁協会の森脇誠さん、講師の大沢摩耶さんに、この研究に対する思いを語ってもらった。
飯塚 主宰する立場としては、ペア碁を通じて地域と関わりを保ち、新しい趣味や生きがいを持ってほしいということです。ペア碁のいいところは、楽しみながら健康増進ができることがポイントだと考えています。
森脇 飯塚さんの研究は囲碁普及の一つのきっかけになると考えていました。ペア碁協会も、世界にペア碁を普及する使命があります。そこで、ペア碁は通常1対1で行う対局以上に考えることが多く、違った効果が出るのではないかと仮説を立て、今回の研究を始めたのです。
飯塚 これまでの研究では、1対1だとコミュニケーションが少ないとか、負けたくないから打ちたくない、というような意見がありました。その点、ペア碁だと人が多い分おのずとコミュニケーションが多くなり、負けることの負担感が小さくなる可能性もありますね。
井上 高島平地域では高齢化や多国籍化が進んでいますが、ペア碁は世代・文化の違いや身体的なハンデがある方でも楽しめ、2人1組で自然と交流も生まれます。子どもから高齢者まで誰もが元気に楽しく暮らせる地域づくりを目指す中で、人と人を『つなぐ』ペア碁の力に大きな可能性を感じます。このような風景が日常に溶け込むことで、生き生きとした共生社会が実現すると考えています。
大沢 アマチュアペア碁大会は第1回目から参加していてペア碁の楽しさはよく知っており、自分の教室でもペア碁を取り入れていました。でも、ペア碁の入門教室という形は初めての経験で、やってみないと分からないな、と思いつつ講師役を引き受けました。こんなに女性が多い(31名中27名が女性)入門教室は初めてで、女性のエネルギーを感じます(笑)。
飯塚 高島平では過去の研究事業で囲碁の自主運営グループが出来ているので、今回の参加者もそこに乗る形で地域に根ざすことを目指したい。また、海外でのペア碁研究も今後計画しています。
入門教室の参加者である、金子晴江さんにもお話を伺った。

入門教室参加者の金子晴江さん
金子 常々、囲碁を始めたいと思っており、この教室を知ってすぐに申し込みました。私はスイミングやフォークダンスといった体を動かすことが好きだったのですが、体調を崩して難しくなりました。囲碁はその点手ごろで、脳機能の維持に期待しています。大沢先生が丁寧で、楽しく取り組めています。


飯塚あい
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加とヘルシーエイジング研究チーム研究員(医師・医学博士)
NHK「囲碁講座」テキスト2月号では、「下島陽平のおしえて! 先生たち~!」「張栩の華麗なるスベリの世界」ほか人気連載も読みごたえたっぷり。別冊付録は「坂田栄男 NHK杯史に刻まれた金字塔2」です。詳しくは、こちら!

◆NHKテキスト「囲碁講座」2月号「囲碁療法 ペア碁研究を取材!」より
◆文 村上深
◆写真 小松士郎