ゾンビと人間の対立から、両者がいかにして相手を知ろうとして認め合えるかを描いた、感動の成長物語『リトル・ゾンビガール』。6月28日に発売されたこの小説は、今年8月に開催予定の「NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』」がもとになって生まれたもの。
今回は、脚本と小説を執筆した德野有美さんと、ミュージカルの演出を手がける鈴木ひがしさんによる特別対談をお届けします!
小説版『リトル・ゾンビガール』(小社刊) 德野有美……とくの・ゆみ/構成作家・脚本家。主にテレビのバラエティー番組、またYouTubeにて構成作家として活動。NHK「となりのシムラ」で脚本家デビュー。趣味は昆虫を育てたり、貝殻を集めたりすること。
鈴木ひがし……「レ・ミゼラブル」オリジナル演出の演出補。演出作品には、十朱幸代主演「プワゾンの匂う女」(芸術座)、「屋根の上のヴァイオリン弾き(21年共同演出)」(日生劇場)などがある。

記事中はお二人を(德)(鈴)と表記します。
 
――お二人にとって「みんなのうた」はどのような存在でしょうか?

(鈴) よく聴いていたのは70年代ですが、中高生になった80年代の頃の曲も覚えています。《山口さんちのツトム君》をはじめ、70年代は泣ける人情派でドラマのある曲が多く、一方、80年代は曲のメロディにインパクトがありぽんと耳に入って「なんだろう」と心に残るんですよね。

(德) 劇中に流れる《アップル・パップル・プリンセス》や《コンピューターおばあちゃん》は私が未就学児の頃の曲で、聞きながら歌ったり踊ったりした思い出があります。「みんなのうた」は、そのように曲に関連して記憶がよみがえるような、聴く人の人生の一部になっている気がします。

(鈴) そうそう、自然と生活の中にあるのが「みんなのうた」というか。

(德) だから、それぞれの世代の人が見に来て、その感覚を一緒に共感してもらえたらうれしいです。


――曲と物語を組み合わせるにあたって工夫された点は?

(鈴) 最初、德野さんの脚本には使いたい曲のリストがあって、德野さんの中で組み立てていたドラマツルギーをもとに始めましたよね。

(德) 通常のミュージカルでは、物語と曲を同時につくっていくと思うのですが、本作は「みんなのうた」という一曲の中にドラマや世界観が凝縮された歌を多数取り入れて一つの物語にするという特殊な事情があります。そのため、曲どうしがぶつかるのを避けつつ、一つの物語になるように鈴木さんと相談して紡ぎました。曲の中にはメッセージ性が強いものもあり、その曲を流す場合、どんなセリフなら自然なメッセージを込められるかというように、曲を前提に描く作業がしばしばありました。

(鈴) 德野さんが曲から“逆算”して脚本を書いたので、僕は曲と物語の関係に必然性が高まるようにブラッシュアップを重ねました。歌自体に備わっているドラマにこの物語への必然性がないとバランスを欠いてしまう。その作業には心を砕きました。他のミュージカルなら、好きなセリフや歌詞を使って演出できますが、今回は、自由にキャラクターたちが動き回って躍動できるようにするために、セリフで語ることの線引きを意識して歌が主役になるように整えるのが工夫点ですね。

ミュージカル「リトル・ゾンビガール」キービジュアル。写真左より、リリィ役 大和悠河さん、 ノノ役 熊谷彩春さん、髙橋ひかるさん、ショウ役 石井杏奈さん、伊藤理々杏さん ――本作に込めた思いとは?

(德) 人間はお互いを完全にはわかりあえないと私は思っていて、でも関わりあったり助けあったりしなければならない矛盾もある。だからこそ面白いし、悲劇も起こる。それぞれ得意・不得意、好き・嫌いがあって、みんな全然違うけれど、平和に生きていくために、とことん相手を理解する努力をしたいと思っています。

(鈴) 他者に耳を傾ける、ということですよね。周囲の人が何を感じているかを想像して、それが驚きや喜びとして素直に受け取れる感性が大事なんじゃないかと思うんです。本作は、ゾンビの少女・ノノが多くの人の話を聞くことから始まり、それから自分で考え、悩み、選ぶわけですが、その行為はとても重要です。

(德) 本当にそう。お互い認め合うまで話し続けることがいかに大切であるか。それを唯一できるのが人間の特権でもあり、平和への第一歩のはず。これからの未来を生きていく子どもたちに伝えたいですね。


――ノノとショウに託したものは?

(德) 私はショウに似ていて、勉強は得意でも「自由に●●してみよう」と言われると固まってしまうタイプでした。だからか、とても描きやすかったです(笑)。反対にノノは私がイメージする“人気者”像で、人の心や境界線をぽんと軽やかに飛び越えられるようなあこがれの存在です。ノノのような子がいると周りは刺激を受け、学ぶこともありますよね。

(鈴) ノノとショウが持つ鋭い感性による指摘が、ふだん大人たちが抱いている疑問や社会の“当たり前”を壊してくれるところに爽快感を覚えます。ですから、大人が見ても共感できる部分がこの物語にはたくさんありますし、お子さんと一緒にご覧いただいた後、感想を言い合ってそれぞれの受け取り方を確認するきっかけになれたらと期待しています。

(德) ミュージカルでは、旧来のしがらみや固定観念を打ち破るパワフルなノノを主人公にすることで、物語を引っ張ってくれる役割を担わせました。片や小説では登場人物たちの心の動きを描写していくため、一歩引いて全体を見渡せるショウが主人公。太陽のような存在のノノに対して、うじうじ考えて、葛藤して、うまくできなくてまた自己嫌悪に陥るショウは、大人の私たちも抱える弱さの写し鏡のようでもあります。ショウの言動に共感して、成長する姿を応援しながら読んでもらえたらと思って、小説では彼を主人公にしています。一方でノノの視点も交えることで、一つの事象に対して多面的に向かっていく様を描きました。

ミュージカル出演の髙橋ひかるさん、熊谷彩春さん、石井杏奈さん、伊藤理々杏さん、大和悠河さんからのメッセージは、「みんなのうた」テキスト8・9月号(2022年7月15日発売予定)に掲載されています。※写真は6・7月号 ――コロナ禍のいま、物語の役割やその意義とはなんでしょうか?

(鈴) いまコロナによってもたらされている苦しみや不安は、元の日常に戻ったとき、もしかすると忘れてしまうかもしれません。いかにして語り継いでいくかを考えたとき、物語は教訓を与えたり、記憶を呼び覚ましたりすることができます。人々にメッセージを伝えられる存在として、絶やさずにいきたいですね。

(德) 脚本や小説を書いていたのはコロナ前のことで、当時「大人も子どもも楽しめる、上質な絵本のような物語にしたい」と、鈴木さんと話していました。100年後でも古臭い話にならず、普遍性を伴う誰もが当事者として受け止められる話として。

(鈴) もともとは「人間の際限のない開発」を主軸に考えていましたね。

(德) あとは「分断」ですね。あらゆる局面で選択を迫られ、そのたびに異なる立場の人が生まれ、論争やいさかいにしばしば発展してしまう。SNSの発展もあいまって誰もがスピーカーになりえる中、対立が可視化され、ぎすぎすした息苦しさが進んでいることを感じていました。いまを生きている私たちの空気感をこの物語にも溶け込ませています。

(鈴) この物語には対立という“壁”があって、子どもも大人も立ち向かい、その解決方法は何がベストかを模索する姿を描いています。長い歴史の中で人間が何度も犯してしまった過ちを繰り返さないためにも、物語の力を借りて問い続け、社会を変える新しい価値観を生み出すことができたらいいなと願っています。


――最後に、それぞれから読者へメッセージをお願いします。

(鈴) いまこそ、舞台ならではの魅力でもある目の前で人が会話して、踊って、歌うことのすばらしさを味わってもらいたいです。本来人間が持っている活力を、ぜひ劇場で直に感じてもらえたらうれしいです。

(德) 小説では特に答えは一つではないということに力点を置き、ショウとノノの視点から登場人物たちの声を聴きとらせて描きました。物事は多面的で、それを善か悪かだけで判断することはできないという当たり前のことを、子どもたちはもちろん、たくさんの方々に感じ取ってもらえたらいいなと願っています。
小説情報 分断が進むいま、「他者を知ること」の意味にふれる心温まる物語
「ゾンビは恐ろしい」と思っている人間たちと、「人間は冷酷」と思っているゾンビたち。かつて、生き残りをかけて繰り広げた戦争が再燃の危機に瀕したいま、ゾンビの少女・ノノと人間の少年・ショウにその運命が託される! 同名ミュージカルの脚本家が、その世界観をさらに広げオリジナリティー豊かに描いた書き下ろし小説。
公演情報 ⼈⾥離れた森で暮らすゾンビの⼥の⼦・ノノと街で暮らす⼈間の男の⼦・ショウの⼩さな友情の物語です。NHK「みんなのうた」から選ばれた、世代を超えて愛される名曲とともにお届けする、⼤⼈から⼦どもまで、みんなで楽しめるオリジナル・ミュージカル。

2022 年8 ⽉20 ⽇(⼟)より 東京・日生劇場にて上演開始予定(以降、巡回予定)

ノノ役(W キャスト) 髙橋ひかる・熊⾕彩春、ショウ役(W キャスト) ⽯井杏奈・伊藤理々杏(乃⽊坂46)、リリィ役 ⼤和悠河 他
脚本 德野有美/作曲・⾳楽監督 ⼋幡 茂/演出 鈴⽊ひがし
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