俳優・上白石萌音さんと翻訳家・河野万里子さんが「ラジオ英会話」テキストに連載していた『翻訳書簡 『赤毛のアン』をめぐる旅』が、書籍『翻訳書簡『赤毛のアン』をめぐる言葉の旅』として刊行されました。
 この度、当時の連載記事を3回にわたって特別公開します。下部では書籍特典の上白石さんによる朗読音声を、一部公開します。(第2回/全3回)
 英語と読書が大好きな俳優、上白石萌音さん。そんな彼女が愛してやまないのが『赤毛のアン』。この連載では萌音さんが『アン』の原文を、ベストセラー翻訳家の河野万里子さんからのお手紙で手ほどきを受けながら翻訳していきます。さあ、英語と日本語を駆け巡る、言葉の旅にご一緒しませんか。 第2回 読者をいざなう言葉 萌音さんのおたより 河野先生

 今月もよろしくお願いします。前回の先生の試訳にわたし大変感激しまして、何度も原文と照らし合わせてはうっとりとため息をついていました(笑)。すっきりなめらかにわかりやすく! がんばります!

 今回の文章は一文が長くて、まず読み解くのに時間がかかりました。一文目からつまずいていますが、埒(らち)が明かないのでそのままお送りします!
 “observer”をもっと素敵に訳したかったです…。なるべく短くシンプルな文章にできるように心がけました! よろしくお願いします!

上白石 萌音
河野さんのおたより 上白石 萌音さま

こんにちは。前回の試訳にうっとりしてくださったなんて、うれしいです! でも考えてみれば、翻訳は物語の世界にうっとり(またはしみじみ、ドキドキ、わくわく)浸ってもらえるよう、読者をいざない、導く仕事かもしれません。そのためには、まず読者が読んだときに、言葉の上で突っかかってしまうところがないようにしないといけないわけですが、今回の日本語はどうかな?

 先月のポイント「頭から訳す」は早速よくできていて、英語の長文もずいぶんわかりやすい訳になっています! そこでもうひと頑張り、今度は日本語だけに集中して、チェックしてみましょう。するとやはり「観察者」のほか、「たぐいまれな」「結論付けた」あたりで、突っかかりそうではありませんか? それは楽しい『アン』の物語というより、論文みたいな「かたい言葉」になってしまっているから。これらを「やわらかい言葉」に直せば、素敵になりますよ!

 たとえばobserver は「観察する人」と考え、「人」(名詞)+「観察する」(動詞)と分解して、名詞の体言止めではなく文章に変えてみます。「普通の人は/なら」のように始め、終わりは「観察する」、いえ「観察する」はまだ「かたい」ので、「気がつく」を使う文にしましょう。さらに、「頭から訳す」基本から一つステップアップして、今回は冒頭のSo far を中に入れ込み、「ここまでは」という直訳から、意味を汲んだ表現に変えてみます。英語と日本語では、文の構造も論理も違うので、翻訳は単語どうしの一対一対応というより、文章全体で同じ意味になるように心がけます。覚えておいてくださいね。

 続きで、次のextraordinary もconcluded も、ごく普通のやさしい言葉にしてみましょう。直した流れのなかで、他の言葉も変えてかまいません。ちょっと長いですが、原文でof whom の前まで、再チャレンジを、ぜひ!

河野 万里子
萌音さんのおたより 河野先生

 なるほど。たしかに、試験のようにかっちり訳すモードになっていました。読み手を思い浮かべて、思いきって、楽しく訳してみます!

 「普通の人が気づけるのはここまでだろう。でも、するどい人なら見抜いたはずだ。あごはきゅっと尖ってはっきりしていて、大きな瞳は元気にあふれ、はつらつとしていること。かわいらしい唇は表情豊かで、おでこは広く丸々としていることを。つまり、よく気がつく人なら、こんなふうに見極めたはずだ。この迷子の小さなご婦人は、ただ者ではない、と。」

 いかがでしょう? よろしくお願いします!

上白石 萌音
河野さんのおたより 上白石 萌音さま

 だんだん自由に言葉が出てくるようになってきましたね! 特に「目」を「瞳」に、「活気で満ちて」を「はつらつとして」としたことで、アンの印象があざやかになっています。「するどい」「よく気がつく」「ただ者ではない」も、よく考えました! が、もう少し物語の時代に合わせた言葉に。「見極めた」も、もっと普通の言葉でも大丈夫。でもこの調子です! 後半は試訳を参考にしてください。
 次回は会話文にチャレンジです。緊張気味のマシュー、美しい景色に感激しているアン、それぞれの気持ちになって、日本語を綴ってみてください。

河野 万里子
 ‘Oh, Mr Cuthbert,’ she whispered, ‘that place we came through — that white place — what was it?’

 ‘Well now, you must mean the Avenue,’ said Matthew after a few moments’ profound reflection. ‘It is a kind of pretty
place.’

 ‘Pretty? Oh, pretty doesn’t seem the right word to use. Nor beautiful, either. They don’t go far enough. Oh, it was wonderful — wonderful.

— Anne of Green Gables Chapter 2 Matthew Cuthbert is Surprised
上白石萌音さんの朗読音声(第2回)はこちら 上白石萌音(かみしらいし もね)
俳優。

河野万里子(こうの まりこ)
英語・フランス語の翻訳家。主な訳書に『カモメに飛ぶことを教えた猫』『星の王子さま』など。
今回公開した連載をまとめ、加筆し、撮り下ろしカットや朗読音声を加えた書籍『翻訳書簡『赤毛のアン』をめぐる言葉の旅』が、5月26日より全国の書店、各ネット書店で予約受付を開始しています。

楽天ブックス限定で、初回生産分のみ『翻訳書簡『赤毛のアン』をめぐる言葉の旅』オリジナルポストカードが付きます。
楽天ブックス http://books.rakuten.co.jp/rb/17164323/
Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4140351810
NHK出版ECサイト https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000351812022.html
※NHK出版ECは7月24日までのご予約で、通常送料110円のところ、無料となります。
関連書籍 NHKテキストからの試し読み記事やお役立ち情報をお知らせ!NHKテキスト公式LINEの友だち追加はこちら!
関連記事